KYS:018

幽韻

本文:12ページ
価格:700円(税別)

[楽曲解説]

 1919年ニューヨーク滞在中に全5曲中の4曲までが完成し、二条院讃岐の「わが袖は...」のみ帰国後の1922年に完成した。カーネギーホールにおける演奏会に際して資金難に陥った山田に対して、シカゴの大富豪チャードボン夫人による援助で救われる。山田はこれに対して感謝の意を込めて献呈する作品のテキス トを探していたところ、たまたま出会ったのがオックスフォード大の英訳による小倉百人一首であった。当初はこのテキストに基づいて英詩に作曲する予定で準備を進めた山田だったが、「原詩の言葉の響きからは遠いところに持っていかれている」のに気づき「もう一度邦語の歌を読み直して、原詩の心を直接音に表現することにした」という。なお、オックスフォード版の百人一首には英訳の他に日本語をローマ字表記されたものも付されており、山田はこのローマ字表記のテキストを自筆譜に書き込んでいる。作曲当初には紫式部の「めぐり逢いて見しやそれと...」の草稿もあったが、最終的には削除され、現行の5首による組曲として完成された。
 筝曲を思わせるピアノ書法、吟唱を意識した歌唱、さらに歌とピアノの呼吸を意識させるような間合いを持ち込んだスコアは、もはや西洋音楽的な語法から完全に離れ、日本人でなければ書けない音楽になっている。例えば、速度一つ見てみても、アレグロともアンダンテともレントとも表現しがたいのは、同じ小節内でテンポの伸縮が表現されているからであり、こうした音楽語法は雅楽の中では日常的にあっても、縦を揃える西洋音楽では馴染みのないものである。そうした様々な要素が、極限まで制限された文字数で世界観を表現する和歌の世界を見事に描き切っている。

「幽韻」


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